「リチウムイオン二次電池」を知っていますか。知らないという方も、きっと毎日お世話になっているはず。リチウムイオン二次電池とはスマートフォンや携帯電話、ノートパソコンやデジタルカメラなどに使われている電池のこと。そう聞くと、あなたの家にもいくつものリチウムイオン二次電池がありませんか。
 モバイル機器に欠かせない電池として今や世界中に普及しているリチウムイオン二次電池ですが、この電池の基礎研究を行ったのが山邊時雄教授です。あんなに小さくて軽いのに、何時間も何十時間もモバイル機器が使えるのは、リチウムイオン二次電池のおかげ。私たちの快適なモバイル生活は山邊教授の研究があってこそ、と言っても過言ではありません。その証拠に専門家の間ではこのリチウムイオン二次電池というテーマは、毎年ノーベル化学賞を受賞するのではないかと話題にのぼっています。そう、山邊教授はノーベル賞ものの画期的な電池を生み出した研究者なのです。
 リチウムイオン二次電池はどのようにして生まれたのでしょうか。
 携帯電話やノートパソコンが開発された1980年代、技術者たちは従来の電池に限界を感じていました。求められていたのは、もっと小さくて軽い、しかも長時間使えて充電できる電池。このニーズに応えようと、世界中の研究者たちはチャレンジを始めました。山邊教授もその一人。山邊教授は研究に取り組んだきっかけをこうも話します。「白川英樹先生はポリアセチレンという物質を発見し、2000年にノーベル化学賞を受賞されました。しかしポリアセチレンという物質は電池の材料には向きませんでした。私は白川先生のポリアセチレンに触発され、電池になりうる材料を開発したいと考えたのです」。
 こうして山邊教授は研究をスタートしました。山邊教授の専門は量子力学に基づいて行う材料設計。簡単にいえば「この材料を使ってこういうものを作れば、こんな性質のものができる」と、ものの設計図を作ることが教授の最も得意とするところというわけです。山邊教授は電池の材料にはどんなものが最適なのか、設計図を考え続けました。
 そして遂に「ポリアセン」という物質を発見します。このポリアセンこそがリチウムイオン二次電池をつくる上で欠かせないもの。このポリアセンの発見が、小さくて軽くて長時間使え、さらには繰り返し充電できる電池を可能にしたのです。新しく生まれたリチウムイオン二次電池は「20世紀最良の電池」といわれ、「おそらく21世紀もこの電池が広く使われていくだろう」と最大級の賛辞をもって世界に迎えられました。 実は山邊教授には白川先生の他にもう一人、終生の恩師と仰ぐ方がいます。それは大学時代に出会った福井謙一先生。福井先生も1981年にノーベル化学賞を受賞されています。山邊教授は「リチウムイオン二次電池は、白川先生と福井先生の両方の考え方の流れを受けて出来たものです」と話します。つまり二人の偉大なノーベル賞受賞者の研究を引き継いだ結果、誕生したのがリチウムイオン二次電池なのです。
 リチウムイオン二次電池がなければ、現在のようなモバイル生活は実現しません。特に強調したいのは、今や世界中で使われているリチウムイオン二次電池が日本発であるということ。山邊教授の研究は、まさに世界の最先端を走っています。