山邊教授の研究室は潮風を感じる学術フロンティアセンターの中にあります。研究室の中には何やら見たことのない装置がたくさんあります。これはすべて電池を作るための装置だそうで、山邊教授曰く「大学でこれほどの設備を持っている研究室は少ないだろう」とのこと。つまりここは電池づくりにおける日本一の研究室というわけです。
この研究室では、電池の材料となるものの研究をしています。どんなものが電池の材料として効率が良く、安定性があり、安全性が高いのか……。学生たちは日々、電池づくりと向き合います。
電池づくりは化学であり職人の要素が求められるといいます。同じ材料を使って作っても出来上がった電池の性能には個人差が生まれるそうで、そこには技術が必要になります。山邊教授は「電池づくりは物理のように思われる方もいらっしゃいますが、化学、いや料理と同じです。おいしいものはそんなに簡単にはできないでしょう。でも、やればやるほど料理は上手になる。電池づくりも経験が大切です」と笑います。また教授はこうも言います。「おかしな話ですが、頭の賢い人より腕っぷしのいい人の方が電池づくりは上手いんですよ。材料を組み立てる最終段階では専用の器機で完全に空気を遮断しなくてはならないのですが、その時に大切になってくるのが力の入れ具合や思い切り。慎重過ぎてもダメだし、ペーロンなんかをやっている学生はとてもいいですね」。
山邊教授には大切にしている言葉があります。それは「学びて思わざれば則ち罔(くら)し、思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し」という孔子の言葉です。これは「学ぶだけで、自分自身で考えることをしなければ身につくことはなく、また自分で考えるだけで、人から学ぼうとしなければ考えが凝り固まり危険だ」という意味。山邊教授はこの言葉こそが「サイエンスの極意」だと言います。
研究者にとって大切なことは「なぜか?」ということを突き詰めて考え抜くこと。山邊教授は学生にはいつも「なぜそうなるのか?」ということを出発点にして話を始めます。「学生から違う発想や実験結果が出ると、大変興味深く思います。たとえそれが間違いであったとしてもです。それをきっかけにものを考えてみることはよくありますし、新しいものというのは、そうしたことから生まれるのです。だから物事の本質は何か? これを常に自分で考える。単に他人から教えてもらうだけでなく、自分自身で考えることが大切なのです」。
リチウムイオン二次電池の研究は、完成しているわけではありません。山邊教授の教え子や孫弟子といった多くの研究者たちは、いまこの時も研究を続けています。それは、もっと多くのエネルギーを蓄え、放出できるように進化させることができないか、と願うからです。山邊教授は「現在、実用化されている自動車用のリチウムイオン二次電池の出力や容量をさらにグレードアップさせたい」と話します。「私は地球の環境問題に大変関心があります。グレードアップさせたリチウムイオン二次電池を世界中のあらゆる車に搭載すれば、環境問題は大いに前進するはずです。まだまだ世界に貢献していきたいですね」。