本学の学長である木下健教授は35年前から海洋再生可能エネルギー(以下、海洋エネルギー)に取り組む、この分野の第一人者です。実は世界に先駆けて海洋エネルギーの利用を始めたのは日本。しかしその技術は今やヨーロッパに追い抜かれ、木下教授は「日本はこの分野において15年遅れている」と言います。その遅れを取り戻し、追い越すためには何をすればいいのでしょう? はたして木下教授の挑戦とは…。
現在、ドイツは総発電量の約30%を再生エネルギーでまかなっています。それに対し、日本はわずか4.3%。その差には2つの要因があります。1つはヨーロッパでは10年ほど前に再生エネルギーブームが到来し、飛躍的に技術が進歩したということ。もう1つは、東日本大震災をきっかけにその技術がさらなる進歩を遂げたことです。「日本は原発事故を起こした当事者でありながら、既得権益を守るため、また物事を変えることを嫌う悪い風習から、この分野が全く進まないばかりか、日々ヨーロッパに差を広げられています」。
木下教授は東日本大震災以前から「海洋エネルギー資源利用推進機構」を立ち上げて研究に取り組む一方、長崎でも本学、長崎大学、県、企業と4者が協力しながら海洋エネルギーの研究を進めていく組織を作り、活動を始めました。
木下教授が海洋エネルギーにこだわるのは、これが成功すれば世界が大きく変わるからです。「発電というと、発電機の研究を思い浮かべる人が多いと思いますが、それだけではありません。例えば発電機のメンテナンスをする船の改良もそのひとつです。また磯焼けで世界中の藻場が減少している現状を踏まえ、立ち入り禁止区域となる発電機の設置場所を利用して、最新の技術によって豊かな藻場を形成し、そこでウニやアワビを育てることも考えられます。このように一口に海洋エネルギーといっても、その周囲には未知の可能性がたくさん眠っています。海洋エネルギーが実現すれば、新しい産業が生まれ、新しい町ができ、地域おこしができるのです」。
海洋エネルギーには風力、波力、海流…と様々な方法がありますが、木下教授がこれから取り組もうとしているのは“潮流発電”。五島沖でフランス製の最新の機械を使って実験を始めます。「15年遅れている日本が世界に追いつくためには、最先端の機械で実験をし、それから先の分野を開発するしかありません。そこから先は絶対に一番にならないとダメなんです。潮流発電は風力に比べて機械が複雑でない分、経済性は良いですし、展望はあると思いますよ」。
「現在と同じくらいの電気代で、100%再生エネルギーの時代が来ますか?」という問いに「来ると思います」と即答する木下教授。「ヨーロッパではすぐにそんな時代が来ると思いますよ。しかし日本はこのままでは高いお金を払ったにもかかわらず、再生エネルギーではないという時代が続いてしまいます」。
木下教授はヨーロッパに追いつくためには、研究のスピードアップと日本国民への理解が必要不可欠だと話します。これを実現するために、木下教授が選んだのは「托鉢(たくはつ)」という道でした。