清山先生が現在の研究に興味を持ったのは、大学時代。先生は人間の体の不思議に魅了されたと話します。「人間の体は電気で動いています。五感で感じたすべての情報は電気信号となって脳に送られ、人間は電気でものを考え、電気で体を動かしています。しかもその構造はシンプルなのに機能は素晴らしい。実は、人間はたった100ワットの電気で動いているんですよ。そのうち脳が20ワット、残りの80ワットで体を動かしている。わずか100ワットの電気ですべてをコントロールしているなんて、人間はなんてすばらしい低電力システムなのだと感動します。目に関しても人間は1憶2000万画素を持っています。よく高性能のデジカメが何百万画素などと言いますが、人間は生まれながらにして精密機械より素晴らしいシステムを持っているんです。私は大学時代、この人体の不思議に魅了され、人間の機能を模倣するような電子回路が作れたら…とこの世界に足を踏み入れました」。
清山先生が取り組んでいるのは、わずか3ミリ角の世界。しかしその3ミリ角はパソコン上で拡大して見ると、まるで宇宙空間のような広がりを見せます。「電子回路も芸術作品と同じで、見ると美しいと感じます。素人が作ったものと専門家が作ったものでは、その美しさは全く異なります。電気的に見て美しければ、測定してもちゃんと動きますし、逆に美しくなければ、たくさんのノイズが入ります。電気回路はシンプル・イズ・ベスト。学生たちも最初に作った回路と卒業するときに作った回路では全く違いますから、成長を実感できると思いますよ。電子回路にはその人が持っている技術のすべてが表れます。そしてその技術は4年間の学びで習得できます。電気は目には見えません。しかし、それが見えるようになると勉強が楽しくなってくるし、私はそれを鍛えたいと考えています。電気電子工学コースの学生の就職先は広く、電力会社のような電気をつくる会社もあれば、スマホや医療機器をつくるメーカーもあります。皆、勉強をしながら、自分の好きな方面をみつけていくんです」。
清山先生は現在、脳波の研究にも取り組んでいます。脳の中にはどういう機能があるのか、脳はどうやって物事を認識しているのか…そうした問題を脳神経外科の医師とともに、医学的な方面から研究を進めています。脳の機能が解明されれば、病気の治療にも役立つと先生は言います。脳の分野は未知数が大きいだけに、研究の道は険しいものの、先生は「自分たちの身体のことが分かるのは面白いですね」と、楽しくてたまらない様子です。
研究の魅力を「この世にないものを生み出すこと。それこそが、ものづくりの楽しさです」と語る清山先生。人工網膜の研究は車の自動運転の技術に応用できると言います。つまり人工網膜を人間ではなく、機械に搭載することで物体を認識するというわけです。清山先生が生み出す3ミリ角の世界は、確かな未来へとつながっています。