加藤貴教授は大学院時代から20数年にわたって「超電導」の研究をしています。超電導とは特定の物質を絶対零度(摂氏-273.15℃)まで下げると、電気抵抗がゼロになる現象のこと。身近なところでいえば、リニアモーターカーや病院のMRIなどに使われています。
電気抵抗がゼロになれば、ロスなくエネルギーを送ることができますが、超低温で冷却するためにはコストがかかり過ぎてしまい、実用化できていないのが現状です。いかに高い温度で超電導を可能にするか—それが、加藤教授の大きな研究目標です。
高温での超電導が可能になれば、コストダウンにつながり、産業の発展に大いに貢献できます。そうしたことから、より高い温度で超電導を可能にすることは、研究者たちにとっても大きな夢でした。1980年代には、多くの研究者たちが超電導の研究に取り組み、理論上は摂氏-150℃までなら可能という結果が出ましたが、実用化には至りませんでした。そうした中、加藤教授は2014年、なんと室温での超電導実現の可能性を示しました。超電導発現の可能性を実験の前に理論予測することは大変難しく、このような理論予測をできた研究は世界中を見ても、ほとんど前例がありません。
この理論を提唱するまでには、紆余曲折があったと加藤教授は言います。「私の研究には2つの流れがあります。まず私が取り組んだのは、1972年にノーベル物理学賞受賞の対象になったBCS理論といわれる、伝統的な手法です。このBCS理論を使って2002年に提唱した私の理論は、2010年に岡山大学の実験チームによって、立証されました。これにより、今までより高温で超電導が可能になることが示されたのです。
もう1つの流れは、恩師である山邊時雄教授からノーベル化学賞を受賞された福井謙一先生の言葉を伺った時に生まれました。福井先生によれば、BCS理論では説明できないような自然現象があると言うのです。私はBCS理論とは逆の、独自の新しい方法で研究を始めることにしました。それが2006年くらいのことです。この研究により、室温でも超電導が可能になるという理論が生まれました。これはBCS理論では決して生まれなかったものです」。
しかし加藤教授は、これまで主流であったBCS理論が間違っているのではないと言います。「今まで幹だと思っていたBCS理論は、実は大きな枝だったと考えるべきです。これまでの私たちの解釈の仕方が甘かっただけと言えますね。私はBCS理論をベースに、もっと大きな統一理論を提唱した、と考えています」。
室温での超電導実現の可能性を示したのは加藤教授が世界初。「でも、理論だけでは世界初とは言えません。これを実験によって実証することが大切です」と加藤教授。現在、加藤教授の理論をもとに、日本やドイツなど、複数のグループが実験を行っているといいます。これから繰り返される実験の中で、加藤教授の理論が実証される日もそう遠くはないかもしれません。