「ヒッグス粒子」という言葉を聞いたことがありますか? ヒッグス粒子は、もし存在しなければ、宇宙を構成するすべての星や生命が誕生しなかったであろうことから「神の粒子」とも呼ばれています。2012年、このヒッグス粒子とみられる新粒子が発見され、その翌年、ヒッグス粒子の存在を理論的に予言したフランソワ・アングレール氏とピーター・ヒッグス氏がノーベル物理学賞を受賞しました。
 実はこの世紀の大発見の陰には、多くの研究者たちの協力がありました。日本でも17の機関から100名以上が参加しており、今回紹介する下島真教授もその一人です。
  下島教授は「素粒子実験物理学」を専門に研究しています。素粒子とは物質を構成する最小単位のこと。現代物理学の基礎となっている標準理論では素粒子は17種類あるとされていて、今回発見された「ヒッグス粒子」は、その最後の1つというわけです。
 ヒッグス粒子は50年ほど前にその存在が予測されていましたが、なかなか発見には至りませんでした。ヒッグス粒子はとても小さく、空間に密集して存在しているため、空間からヒッグス粒子をはじき出すためには、とてつもなく大きなエネルギーが必要になるのです。
 これにチャレンジしたのがLHCアトラス実験グループです。世界中から約3000人の物理学者が協力し、14年の歳月をかけて、スイスに史上最高のエネルギーを生み出す装置を作り上げました。それが加速器と呼ばれる装置で、円周27kmにも及ぶトンネルの中で陽子と陽子を衝突させ、その様子を観察するというもの。下島教授はこの陽子同士がぶつかる瞬間を記録し続けるシリコン検出器を作る分野を担当していました。シリコン検出器は粒子の精密な飛跡を検出するという重要な役目を担っています。
 「本物ですよ」と下島教授が見せてくださったのは、ペラペラと薄い、鏡のようなもの。このようなセンサーがシリコン検出器だそうで、想像とはだいぶ違います。ヒッグス粒子を発見したアトラス検出器にはこういったセンサーが数えきれないほど多く取り付けられているといいます。厚さわずか0.3ミリのこんなにも薄い板のようなものが、膨大な量の情報をすばやく正確に検出できるという技術の高さには驚かされます。
 下島教授は素粒子研究の魅力を「人間が作ったものではないものと向き合い、どうしてそうなっているのか解明していくのはとても楽しい」と話します。素粒子研究は宇宙の真理、人間の真理を探究する学問なのかもしれません。