加藤教授の論文を拝見させてもらうと、見たこともないような難しい数式のようなものが並んでいます。その内容は素人には、まさにチンプンカンプンです。加藤教授は「僕の仕事は理論を考えることですから、ペンとノートさえあれば出来ます。だから自宅や喫茶店など、いろんな場所が研究室になるんですよ」と笑います。
 研究者には大きく分けて、2種類があります。理論を提唱する人と、実験によって事実を証明する人。加藤教授はもちろん前者。「実験をする前に理論で予測する、仮説を立てるというのは、非常に重要なことです。しかし残念ながら、最近は実験が先行し、実験で出た結果に合う理論を考えるという場合も少なくありません。本来、理論とは実験の前に仮説を立てなければ意味がありません」と加藤教授は話します。
 では、加藤教授の理論とはどうやって生まれるのでしょうか。「例えばある現象について書かれた物理の本を読みます。そして次に、同じ現象について書かれた化学の本を読みます。そうすると、出発点が違うので、矛盾が生じてきます。その『おかしいな?』という矛盾点を突き詰めていくと、新しい理論が生まれるんです」。
 また加藤教授はこうも話します。「研究者の間ではよく『定説を疑え』とか『猜疑心を持って物事を見ろ』などと言うことがありますが、私はそういう姿勢からは建設的なものは生まれないと思っています。これは最近、学生にもよく言うことですが、『疑うのではなく、精一杯理解しようとする姿勢で臨みなさい』と。本を書いている人も全身全霊で書いています。簡単に間違いなんか見つかりません。またその1冊だけを読んでも、それだけで完結しているため、矛盾が見えてきません。矛盾というものは、必ず2つ以上のものを見比べた時に見えてくるものです。そして矛盾が生じた時に初めて疑うのです。しかし、その場合も、どちらかの説が間違いだと切り捨てるのではなく、どちらも生かそうとする努力してほしいのです。先人たちの研究に敬意を払うことは大切なことです」。
 加藤教授は学問の中身だけでなく、学問に対する姿勢こそを伝えようとしています。現在、研究者の間には加藤教授のようないくつかの専門分野を見比べて、総合的に物事を考える人が少ないのが現状です。それゆえ加藤教授は一人で戦う孤独な戦士のようでもあります。
 室温での超電導が可能になれば、送電線も超電導になり、極端にいえば、アフリカやオーストラリアで作った電気を日本に送ることができるようになります。近くで発電する必要がなくなるため、これまでのように場所を問わないで済むようになるのです。結果、自然エネルギーだけで電気をまかなえるようになり、世界は大きく変わります。これが実現したら、ノーベル賞も夢ではありません。孤独な戦士の戦いはまだまだ続きます。